男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「じゃあ楓、また後で。」
「うん。」
手を振れば、楓も手を振りかえす。
一旦家に帰り泊まりの用意をしてから楓の家に向かう事になった。
車の中、未だに自分の服を握りしめていることりを見て陽は目を見開いた。
「ことり...。」
ことりの目には涙が溜まっていて、今にも零れ落ちそうだ。
「お兄ちゃん、どうしよう。」
声が震えていた。
「どうした?」
「私、郁のこと、」
この先を言う勇気が無かった。
どうして、気づいてしまったんだろう。
気づかなければ、こんなに悩まなくて済んだのに。
抱きしめられた時に高鳴った鼓動と、
嫌じゃなかった理由が今でははっきりと理解できる。
楓や、他のメンバーを想う気持ちとは違う感情が彼女の心を埋め尽くしていた。
本当は、気づいていたのかもしれない。
もっと前から郁の事が、_______。
けれど、無理なのだ。
自分は陽の妹であって、陽じゃなければスカイでもない。
ただの、普通の女子高生。
余りにも不釣り合いな立場に泣きたくなる。
どうすればいいのかわからない。
陽はぽんぽんと彼女の頭を撫でた。