男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-






「...。」

郁は一人、道を歩く。

昨日までの陽が、陽ではなく双子の妹だった事が未だに信じられない。

否、信じたくないのかもしれない。


信じてしまえば、自分の気持ちに制御がかけられなくなりそうで怖い。

最近の陽に惹かれていたのは事実で、けれど陽は男だからという理由で

この気持ちを忘れようとしていた。

けれど、陽(ことり)は女だった。

嬉しくもあり、戸惑いもある状況がもどかしい。


ことりの、悲しそうな苦しそうな表情を見た瞬間、無意識に体が動いていた。

彼女を抱きしめてしまったときの感触が忘れられない。


彼女にあんな表情をさせたくないと思った。


胸がきゅう、と締め付けられて鼓動が早くなるのも、

楓が自分より先にことりの存在を知っていた事に嫉妬したのも、

全部、



「...好き、だから..か。」


気づいてしまった。

もう後戻りはできない。

けれど彼女は陽の双子の妹で普通の女子高生。

スカイでは無くなってしまった今、接点はない。

それに自分は芸能人でアイドルなのだ。

今、スカイは成長している真っ只中。

そんな中で熱愛が報道されれば人気はガタ落ちだろう。

その前に、彼女が自分に振り向いてくれる可能性はきっとない。

見る限り、自分よりも楓と親しそうだった。


考えれば考えるほど、分からなくなる。

今の郁には、明日のリハーサルの事を考える余裕は無かった。




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