男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
*
「...。」
郁は一人、道を歩く。
昨日までの陽が、陽ではなく双子の妹だった事が未だに信じられない。
否、信じたくないのかもしれない。
信じてしまえば、自分の気持ちに制御がかけられなくなりそうで怖い。
最近の陽に惹かれていたのは事実で、けれど陽は男だからという理由で
この気持ちを忘れようとしていた。
けれど、陽(ことり)は女だった。
嬉しくもあり、戸惑いもある状況がもどかしい。
ことりの、悲しそうな苦しそうな表情を見た瞬間、無意識に体が動いていた。
彼女を抱きしめてしまったときの感触が忘れられない。
彼女にあんな表情をさせたくないと思った。
胸がきゅう、と締め付けられて鼓動が早くなるのも、
楓が自分より先にことりの存在を知っていた事に嫉妬したのも、
全部、
「...好き、だから..か。」
気づいてしまった。
もう後戻りはできない。
けれど彼女は陽の双子の妹で普通の女子高生。
スカイでは無くなってしまった今、接点はない。
それに自分は芸能人でアイドルなのだ。
今、スカイは成長している真っ只中。
そんな中で熱愛が報道されれば人気はガタ落ちだろう。
その前に、彼女が自分に振り向いてくれる可能性はきっとない。
見る限り、自分よりも楓と親しそうだった。
考えれば考えるほど、分からなくなる。
今の郁には、明日のリハーサルの事を考える余裕は無かった。