男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「彩乃ちゃんの様子見てくる。」
「え!?」
「ことりは待ってて。」
陽は立ち上がると、ことりの返事を待たずに脱衣所へと向かう。
一人リビングに残されたことりはじっとしているしかできなかった。
暗い室内を下手に動いて迷うわけにはいかない。
「...。」
暫く経っても2人は戻ってこない。
だんだんと不安になってくる。
こんな事になるなら一緒についていけばよかったと思った。
「ブレーカーが原因じゃなかったみたい。」
ビク!と肩が揺れる。
突然背後から話しかけられて驚いた。
「か、楓...?」
「うん。陽君は?」
「彩乃ちゃんの様子を見に行って、戻ってこないの。」
「へえ。」
対して興味なさそうに返事をして、楓はことりの隣に座った。
すぐ近くに楓の存在を感じて、先ほどとは違う緊張感が走る。
「ことりさぁ。」
「...え?」
「郁の事、好きでしょ?」
突然聞かれた内容に戸惑い、咄嗟に返事をする事が出来なかった。
肯定も否定もできず、ただ楓を見ることしかできない。
暗闇になれてきたのか、うっすらと楓の顔を認識できた。