男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-


「何も言わないってことは、当たり?」

ス、と静かに自分の手の上に楓の手が重ねられた。

逃げる事は許さないと言っているようにぎゅ、と手に力がこもる。


「なんで、郁なの?」

「っ...楓、私は、」

「好きじゃないって嘘つくの?」


真っ直ぐと、言葉が心に突き刺さる。

「今のスカイには、恋愛してるヒマなんてないんだよ?ことりも知ってるでしょ。」

楓は自分でも最低だと思った。

ことりの気持ちに気づいているからこそ、郁の想いを知っているからこそ、

2人をくっつけたくない。

わざと突き放す言葉を述べて、ことりを追い込む。


「...私、楓が言うとおり郁の事が好きなんだと思う。

けど、気持ちを伝える気はないよ。」


「...そう。」

ギリ、

ことりの口から直接想いを聞いて、嫉妬心が沸き起る。

「痛、」


思っていた以上に手に力がこもってしまったらしい。

けれど楓は気にすることはなかった。



そのまま彼女に顔を近づけると一瞬だけ唇を重ねる。

一瞬だけ触れた暖かい感触に、ことりは驚き目を見開いた。

手を振り払い、彼から距離をとる。


「っ、か、えで?」



お互いに今、どんな表情をしているのかわからない。

楓の行動の意味がわからずに、ことりは呆然とするしかなかった。
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