男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
リハーサルと事故
*
翌日、早くからことり達はコンサート会場に向かった。
まだ朝早いと言うのに、スタッフ達が慌ただしく動いている。
ステージ裏では本番と同じ衣装を身に纏っているメンバーの姿があった。
ことりと彩乃は関係者しかいない客席に座っていた。
「陽君、かっこいいだろうなあ。」
隣の席で頬を少し赤らめながら彩乃は呟く。
思わず苦笑すれば、彩乃は表情を顰める。
「先輩もそう思いませんか!?」
「え、...まあ、うん。」
自分の兄を素直に恰好良いと言い辛く、言葉を濁せば彩乃は再び正面へと顔を向ける。
トントン、
ことりも前を向いたその時、二回肩を叩かれた。
振り向けばそこにはマネージャーの木村が立っていた。
「やあ、ことりちゃん。」
「き、木村さんっ」
思わず目を見開いて彼を見た。
「ことり先輩の知り合い?」
「知り合いっていうか...」
「初めまして。スカイのマネージャーの木村です。」
木村は彩乃に名刺を差しだし、愛想笑いを浮かべると彩乃も驚いたような表情をする。
「先輩、マネージャーさんと知り合いだったの!?」
「前に陽さんに用事があり、ご自宅に訪問したときに知り合ったんですよ。」
ね、と木村はことりを見た。
それにこくこくと頷けば彩乃は納得したようだ。
「ことりちゃん、ちょっと抜けれるかな?」
「あ、はい。」
少し行ってくるね、と彩乃に告げて席を立つ。
木村の後に続いて、会場の隅に移動した。