男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「改めて、お礼を言うよ。有難う。」
「いえ、こちらこそ有難うございます。」
ことりが頭を下げれば木村は慌てて顔をあげさせた。
「ことりちゃんが礼を言う必要はないよ。」
「良い経験をさせてもらいました。
少しの間だけどスカイで活動できて、変われた気がするんです。
だから、有難うって言いたくて...」
「ことりちゃん...。」
「最初はお兄ちゃんの変わりなんて嫌だったけど、木村さんには本当に感謝してます。」
だから、有難うございます。
ことりの声は震えていた。
スカイで活動できて、今なら心の底から良かったと思える。
けれどそれと同時に辛くもあった。
割り切らなければいけない。
木村はフッ、と笑ってステージに視線をうつした。
照明が消え、ステージにスポットライトがあたる。
「ことりちゃん。」
木村に名前を呼ばれ、視線をステージにうつした。
そこには衣装を身に纏った「スカイ」が居た。
音楽が流れ、メンバーは踊りだす。
誰が見ても彼等は輝いていた。
すぐ近くに居るのに、あんなにも遠い。
今流れている音楽も、ダンスも、こないだまで自分が毎日のように聞いて
練習していたモノで、思わず涙が頬を伝って流れ落ちる。
悲しくないのに、涙は止まらない。