男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
曲は監督の合図で止められた。
「あれ、誰ですかね?」
スタッフの一人が問えば、隣の椅子に座っていた監督が考えるようなしぐさをしてから口を開いた。
「時間がない、リハーサルの邪魔だから退かせろ。」
「は、はい。」
命令されて仕方なくスタッフ数人がことりの元へ向かう。
メンバー全員の視線が、ことりに向けられた。
南と柚希はことりを訝しげに見つめる。
「ちょっと君。リハーサルの途中なんだ。さがっててくれないか?」
「見学するなら、邪魔にならないようにしてくれ。」
スタッフがそう声をかけても、動かない。
仕方なく彼女の腕を掴んだ時だった。
「私っ、あなた達のおかげで、変われたんです。」
そう、突然に告げた。
強く引っ張られ、その場から離されそうになるが足に力をこめてなんとか耐える。
楓と陽が驚く。
ことりは郁に視線を向けた。
ぐ、と拳を握り覚悟を決める。
「っ、好きです。」
「...え?」
「あなたの、貴方たちの歌がっ、存在が、大好きなんです。
あなた達を待ってるファンはたくさんいると思います。
だから、頑張ってください。ずっと応援してますから!」
自然と早口でそう叫ぶと、ことりの頬は赤くなっていく。
「いい加減にしろ!」
スタッフが先ほどよりも強い力で、ことりの腕を引っ張る。
「っ、」
そのまま彩乃の元まで戻されてしまう。
メンバーは呆気にとられ、茫然としていた。
「ことり先輩...。」
彩乃も、驚いた表情でことりを見上げる。