男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「ついたよ。」
「・・・。」
テレビ局前につき、ことりは目を見開いた。
今までに感じたことのない緊張感が走る。
マネージャーは駐車場に車を止めると、
後部座席のドアを開けてことりに出るように指示する。
「一人称は俺。あとは、適当に話を合わせてくれてればいいから。」
「・・・そんな簡単に、行くはずないですよ。」
「大丈夫大丈夫。俺もフォローするから。」
不安で仕方がない。
ことりは車から降りると、木村についていく。
メイクを担当してくれた女性とは入り口で別れた。
ぺこりを小さく頭を下げれば、女性は笑顔で手を振ってくれる。
「おはようございます!」
テレビ局に入った直後、自分に向けて挨拶をしてくる黒いスーツの関係者達。
「お、おはようございます。」
ことりは引き攣った笑顔で挨拶してしまった。
(なんなのよここ・・・。)
大勢の大人たちに囲まれているだけで緊張するというのに、
こんな場所でカメラの前で収録なんてできるわけがない。
無意識に自身が震えているのを感じた。
「陽さん、こちらです。」
「・・・。」
「陽さん?」
「あ、ハイ!」
木村に呼ばれて、はっと顔を上げる。
そうだ、自分は今陽だった。
『ことりちゃん、しっかりして。』
小声で木村にそう言われ、
ことりは曖昧に頷いた。