男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
郁は目を片手で覆った。
声を殺して、涙を流す。
知らない間に俺は、「スカイ」は彼女に支えられていたんだと思う。
彼女はスカイを変えてくれた。
俺に、大切な事を教えてくれた。
今日のリハーサルの時も、ことりはスカイの為に言葉をかけてくれた。
俺を、助けてくれた。
自分は何もことりにしてやれていない。
こんなに好きなのに、やっとこの気持ちに気づけたのに。
自分の事ばかりの俺は、まわりに迷惑をかけてばかりで。
胸が苦しく、切なくなる。
「...ことり、大丈夫そうで良かったわ。
お母さん、いったん家に帰ってことりの荷物をまとめてくるわね。」
「...うん。」
「陽君、後はよろしくね。」
母親はそれだけ言い残すと、病室を出ていった。
郁はことりの手を握る。
「ことり、俺、お前の事好きだよ。」
彼女は目を覚まさない。
想いは届く事は無かった。
「...郁。」
陽は、告白した郁の名前を呼んだ。
彼は陽を見て、苦笑する。
「陽。」
「ん?」
「コンサート、成功させよう。」
「...当たり前だろ。」
今の自分にできることは、コンサートを成功させる事だと思う。
そして、もっと上を目指す。
「...それで、いいんだよな。」
呟いた言葉は、誰にも聞こえることは無かった。