男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-


「大丈夫か!?今、医者呼ぶから。」

陽はボタンを押してナースコールをした。

慌てる二人を見ても、

よく状況が理解できないことりは不思議そうな表情で目の前の光景を見ている。


「あの、」

「何だ?」


「あなた達、誰ですか?」


「え、」

決して冗談を言っているようには聞こえない。

まさか、ことりは___


その時、病室に担当医とナースが入ってきた。

「目を覚まされたんですね。」

「っ、ことりの様子が可笑しいんです。」

「どういう風に可笑しいんですか?」

「俺達の事を、覚えていないみたいで...」

陽が告げると、担当医は大きく目を見開いた。

そしてことりの前に立つと、何かを確認するように質問を繰り返す。


「自分の名前は言えますか?」

「...森山、ことりです。」

「どうやら名前は覚えているみたいですね。

お母さんの名前はわかりますか?」

「...お母さん?」

「そうです。」

「...わかりません。」

俯き、そう答えれば担当医は彼女を安心させるように微笑む。

そのあと、計算問題や日常的な質問をしたがそれには問題は無かった。

彼女の中から、今まで関わってきたすべての人の記憶が無くなっているらしい。


「大丈夫ですよ、一時的なものでしょう。いずれ記憶がもとに戻ります。

他に異常は見られませんので、明日には退院してもいいですよ。」





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