男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
戸惑いを隠せない状況の中、
ことりの荷物を取りに行っていた母親が病室に戻ってくる。
そして担当医から説明を受けると驚いた様子でことりを見た。
「ことり、お母さんの事っ本当に覚えていないの?」
「...ごめんなさい。」
申し訳なさそうに謝る姿に、母親は思わず涙ぐむ。
「大丈夫ですよ。きっとすぐに記憶は戻ります。
できるかぎり、普段通りにことりさんと一緒に過ごしてあげてください。」
「...分かりました。」
今日は一応様子見で入院するらしく、明日退院できるらしい。
母親は今晩は病院に泊まる事にした。
「2人とも、もう遅いからそろそろ帰りなさい。」
「...うん。」
「明日、番組の収録があるんでしょ?」
「...なら、そろそろ帰るよ。行こう、郁。」
「あ、ああ。」
陽は重い足取りで病室を出た。
郁は母親に軽く頭を下げて、陽の後を追う。
病室を出るときに一度ことりに視線をうつした。
彼女は不思議そうな表情で自分を見ている。
「...医者は一時的なものだっていってたし、すぐに良くなるだろ。」
陽は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
郁はそれに頷いた。