男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
失ったもの
陽は郁と別れ、一足先に家に帰宅した。
丁度そのとき携帯が鳴る。
電話に出ると、ことりを心配した楓からだった。
『陽、ことりはどうだった?』
「...うん、もう目を覚まして大丈夫だよ。」
『そう。よかった。』
「...けど、記憶がないみたいなんだ。」
『え?』
突然すぎて状況を理解するのに少し時間がかかった。
『...何時退院するの?』
「明日だと思う。」
『収録終わったら、家に行っていい?』
「いいけど、俺は収録後撮影あるから一緒には居れないけど大丈夫だよな?」
『うん。』
明日、ことりに楓が来る事を伝えてから仕事に向おうと思った。
きっと母親は病院に泊まるだろう。
まさかこんな事になるなんて思わなかった為に、未だに動揺していた。
*
「ことり、何か食べる?」
「...ううん。」
ことりは戸惑いながら、否定した。
なんだか申し訳なくて、ことりは必至で忘れた記憶を思いだそうとする。
けれどそう簡単には行かない。
考えれば考えるほどわからなくなり、頭痛がするのだ。
そんな様子の彼女に気づいた母親は無理しなくていいのよと声をかけた。