男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「お母さん、」
「なあに?」
「...私、どうして記憶が無くなったの?」
純粋に原因を知りたくてそう問えば、母親はふ、と笑って彼女を見た。
「...友達を庇ったからよ?」
「友達?」
「ええ。さっきお見舞いに来てくれてた子を庇ったの。」
さっき、と聞いて自分の兄らしい陽と彼の友達だという郁を思いだした。
どうやら郁は自分の友達でもあるらしい。
「ほら、見て。」
母親はテレビを指さした。
ことりはつられて画面に視線を向ける。
そこには歌を歌い踊っている「スカイ」が映っている。
「っ、さっきの人達だ。」
驚いた表情を見せれば、母親は彼等はアイドルだと言う事を教えてくれた。
そんな人達と関わりがある自分に驚きを隠せない。
一曲目が終わり、二曲目に入った時だった。
「...。」
(この曲、知ってる。)
どうしてかわからないけど、懐かしい。
記憶を無くす前、彼等と関わっていた時に聞いた事があるのだろうか。
けれど、それだけじゃないような気がする。
「もうそろそろ寝たら?夜遅いし。」
「...うん。」
ピ、とテレビをきられてことりはベッドに横になった。
「お休み。」
「おやすみなさい。」
静かに目を綴じたが、今テレビで見た「スカイ」が頭から離れず
中々眠りにつくことができなかった。