男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
そのまま楽屋へと案内される。
ドキドキドキ、
だんだんと鼓動が早くなってくる。
「じゃあ、陽さん。
リハーサル前になりましたら呼びに行きますんで。」
木村はさわやかな笑顔を向ける。
「え!?木村さんは?」
「俺はほかに仕事があるから。
大丈夫、陽さんになりすまして、余計なことを話さなければどうにかなるよ。
じゃ、頑張ってねことりちゃん。」
あまりにも無責任だと思った。
ことりは泣きそうになるのを堪える。
背中を向けて歩いていってしまう木村をキッと睨みながら
どうしよう、と楽屋の前で悩む。
しばらくその場で悩んでいると、
突然肩にポンと手を置かれた。
「ひいっ!」
「何突っ立ってんだよ、陽。しかもなんだその悲鳴。」
驚きすぎだろ!と声をだして笑う人物に目を向けて、
ことりは固まった。
「あ、あっ!」
今、自分の目の前にいるのは、陽と同じグループの雪平 南。
芸能人が、アイドルが目の前にいる。
それだけでどうすればいいのかわからなくなり、
ことりは意味不明な声をあげてしまった。
クラスの女子のほとんどが「スカイ」のファンなのだ。
それに、陽が時々話す内容の中にも彼の名前はたびたびでてきた。
テレビでも何度か見たことがある。
緊張感が走る。
「?とりあえず中に入ろうぜ!」
南はドアを開き、ことりの背中を押して無理やり楽屋に押し入れた。
「ちょっ、」
「おっはよー!」
元気よく挨拶する南に対し、ことりは驚きのあまり声を出せなかった。
目の前には、テレビでしか見たことのない「スカイ」のメンバーが揃っている。
「っ~!」
ああ、もう、どうしよう。
ことりはパニックに陥っていた。