男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-



ぎゅ、と服を握られた陽は驚いてことりを見た。

ことりも無意識だったらしく、陽を掴んでしまった手をばっと離すと

恥ずかしそうに顔を俯かせる。


「...ことり?」

「スカイを見れば記憶が戻りそうな気がして...

ごめん、お、お兄ちゃん。」

少し言いにくそうに自分を呼ぶ彼女を見て陽は笑った。

そして、彼女の手を引く。

「母さん、ことりも連れていくから。」

「え?ええ。陽君がいいなら、いいけど。送っていく?」

「まだ時間あるからいいよ、歩いて行く。」

行こう、とことりの手を引いて歩き出した。

後ろから 気を付けるのよ という母親の声が聞えて陽は頷いた。


特に会話もなく二人は歩いて行く。

まだ時間もあるし、ことりのためにも少しだけ遠回りしていこうとして

いつもと違う道に差し掛かった。

ことりはただそれについていく。


「この道、覚えてる?」

「ううん。」

「だよなあ。ここ、ことりが良く通学に使ってた道。」

日曜日だということもあるために人通りが多い。

陽は少しだけ深く帽子を被って軽い説明を入れながら歩いて行く。

きょろきょろと見回して辺りを見ると、なんだか懐かしい感じがした。



とあるスタジオの前で立ちどまった。

「ここだよ。」

どうやらここで収録があるらしい。


「...ここ、」

(知ってる...)


「知ってるの?」

「...うん。来たことある。私、収録...でて、」

それで、と言葉をつづけようとするが思いだせない。


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