男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「...なんで、楓く「楓」..楓が?」
疑問に思ったことをそのまま口にすれば、
陽はこれから撮影がある為に一緒に帰れないと言っていた事を教えてくれた。
「帰り方、わからないかも...。」
ぽつりと呟けば、送ってくと言われてお礼を言えば気にしなくていいと言われる。
「最初からことりの家に行くつもりだったし、丁度よかった。」
ほら、行くよ。と手を退かれる。
自然と繋がれた手に思わず頬を染めた。
ふわりと彼の匂いが鼻を掠めて、心が温かくなる。
何故か、酷く安心した。
思ったよりも熱い楓の手の熱が伝わり、ことり自身も熱くなってくる。
スタジオを出て、帰路につく。
「あ、あの。」
「何。」
「その、手...。」
未だにつながれている手を指摘すれば、彼は頬を少しだけ赤くして 嫌なら離すけど と言う。
それが可愛く見えて、きゅうと心臓が締め付けられた。
嫌では無かった為に 大丈夫です と小さく答えれば楓は一瞬表情を歪める。
(...ことりは、郁の事が好きなのに。僕、何やってんだろ)
今彼女が自分を拒まないのは記憶がないからだ。
郁に恋をしている事を思いだせば、きっとことりはこの手を離すだろう。