男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「ことり、本当に記憶喪失なんだよね?」
「...うん。」
「...そう。」
早く思いだせるといいね、と言えばことりは頷いた。
2人の間に沈黙が落ちる。
少しだけ気まずい空気にことりは何か話題がないかと探しているとき
楓が真剣な表情でことりを見た。
ドクン、と心臓が唸る。
「郁の事も、思いだせない?」
どうして楓が郁の事を聞くのかわからなかったが、
頷けば少しだけ表情が和らいだ気がした。
それから少し考えて、楓は鞄からIPODを取り出した。
そしてイヤホンをことりに差し出す。
首をかしげながらそれを受け取ると、楓は つけて と言った。
つけたのを確認すると、音楽を再生させた。
♪~、♪~
さっきの収録中でも聞いた曲だった。
「これ、スカイの新曲の 絆 って曲。僕とことりが同じパートで、
家で何度も練習したんだけど...サビのとこ、いっつも同じところでことりが
間違ってて、」
懐かしむように話し出す楓を見て、ことりは再び胸が熱くなった。
この曲、知ってる。
覚えていないはずなのに、自然と頭の中に歌詞が流れてくる。
「...必死でメンバーに追いつこうとして、練習しすぎて疲労で熱をだしたこともあったよね。」