男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
音楽が流れ始め、スカイは踊りだす。
けれど 陽 は全く踊れていなかった。
アドリブで会場に居た人達を圧倒させる。
この時、まだダンスを覚えていなかったんだ。
だから、どうにかしようと思ってヤケになってアドリブをして。
突然の行動に驚いたメンバーが陽にあわせてアドリブをしている。
陽をなんとかしてフォローしようとして、
全員の動きが変わった。
改めて見ると鳥肌がたった。
そうだ、この時に頑張らなきゃと思ったんだ。
画面の中の郁が輝いて見える。
けれど、楓を見ると胸がチクンと痛んだ。
___楓。
胸が、苦しい。
ツツー、と一筋の涙が頬を伝って流れる。
刹那、忘れていたはずの記憶が突然脳内に流れ込んできた。
もやがかかっていた記憶がクリアになりことりは大きく目を見開く。
「あれ、私、」
私は、間違っていなかった。
何で今になってわかってしまったんだろう。
記憶が戻った今も、
「楓が好きだ...。」
郁の事は、もちろん好きだった。
けれどそれは恋愛感情ではなかった。
自分とは違う郁に強い憧れを抱いていたのだ。
きっと、勘違いしていたんだと思う。
憧れと、恋はやっぱり違う。
「ただいまー。」
扉が開く音が聞こえ、陽が帰宅した。