男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
近くのトイレに駆け込むと、
煩いくらいにバクバクと鳴っている心臓を必死で落ち着かせようと
深呼吸する。
(どうしよう...。)
手に握る衣装を見て、悩む。
できることならこのまま逃げてしまいたい。
どうしてはっきり無理だと言って断らなかったのだろう。
「っ...。」
ことりは、しゃがみこんだ。
キィ、
扉の開く音がして、ことりは視線を向ける。
「っ...え!?き、キャアアー!」
「!?」
突然入ってきた女性に、悲鳴をあげられてしまう。
なんで自分を見て悲鳴をあげるのだろう。
ことりは不思議そうな表情をして立ち上がり、あたりを見回すが
何も驚くような対象はない。
「なっ、なんで女子トイレにいるのよ!!」
「あ!」
トイレの鏡にうつる自分を見て、ハッと気づいた。
そういえば、今は陽の姿だった。
「ご、ごめんなさい!間違えて...。」
「どこをどうすれば間違えるのよ変態!スカイの陽が変態だったなんて...」
キモい。
はっきりとそう言った女性に、ことりは少なからずショックを受ける。
「さっさと出てってよ!」
「あ、ハイ!」
無意識に女子トイレに入ってしまったことを後悔しながら、
場所を男子トイレにうつすと、個室に入り衣装に着替え始めた。
(...もう、やるしかないのかな。)
どうせ誰も、陽の双子の妹のことりだなんて知るはずがない。
もし失敗したとしても、それは陽が失敗したことになる。
そう思うと、不思議と気持ちが軽くなった。