男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-

素早く衣装に着替えると、男子トイレから出た。

楽屋に戻るとそこにはすでに準備が整っているメンバーが居た。

「おせーんだよ陽。」

南が呆れたような表情で話しかけてくる。

「うん、ごめん。」

「じゃあ、行くか。」

郁が静かに言った。

それに頷き、全員が収録場へ向かう。

「・・・・。」

「?」

そういえば、メンバー内でも最年長の橋本柚希とは一言も話していないな

と思い視線を向ければ、ぱちりと目があった。

気まずくなりばっと視線を外す。

(び、ビックリした...。)





収録場につくと、テレビでしか見たことがないセットが並んでいる。

少し緊張が落ち着いたというのに、また鼓動が早くなってきた。

「じゃあ、最終確認をします。」

聞きなれた声に、ことりはばっと顔をあげた。

目の前にはスカイのマネージャーの木村が、台本を持って立っている。

「き、木村さん...。」

不安そうな声をあげれば、木村は笑う。

「どうしたんですか、陽さん。」

「~っ、...やっぱり、無「陽さんは、ここに座ってくださいね。」

「え!」

言葉を遮られて、台本を見せられた。

やはり人気というだけあり、ど真ん中の席だ。

「本番は、司会者とトークをして終わったらスカイはすぐにステージに移動。

歌うのは最初だから、宜しくお願いしますよ。」

『はい。』

メンバーがはっきりと返事をするなか、ことりは沈んだ顔をしていた。

「陽、今日可笑しくないか?」

「さ、佐野さん...。」

「佐野さん?お前、いつも俺の事名前で呼んでただろう?」

「あ、あー...そうだった!大丈夫だよ、郁。」

引き攣った笑顔を向ければ、郁は訝しげな表情を浮かべた。


「そんな笑顔じゃ、テレビに出れないよ。」

呆れたような表情を見せる楓に、  ゴメン と謝るとため息をつかれた。
< 19 / 213 >

この作品をシェア

pagetop