男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
♪〜、♪〜、
ちょうど席についた時、ことりの携帯が鳴った。
携帯のディスプレイを見ると楓からだ。
不思議に思いながら電話にでる。
『ことり、陽が何処にいるかわかる?』
「お兄ちゃんなら朝早くに家をでたけど…
どうしたの?」
『まだ、到着してないんだ。』
「え?…」
なんで到着してないんだろう。
自分よりも早く家をでたはずなのに…
嫌な予感がする。
『陽の携帯に連絡しても繋がらないし…それに、時間がない。今、手のあいてるスタッフ全員で陽を探してるところ。』
「何か、あったのかも…」
ことりの脳裏に蘇るのは、交通事故で意識不明になった兄の姿。
無意識に手が震えた。
「…先輩?」
彩乃は隣に座ることりを不思議そうな表情で見た。
『ああ、もう!楓さん携帯借ります!!!』
『あ、ちょっ…』
ガッという音がして、通話相手が変わった。
『ことりちゃん!!』
木村の、予想以上に大きな声が響き思わず少しだけ携帯を耳から離す。
隣に座る彩乃にも聞こえたようで、彼女も驚いていた。
『時間が無い、今すぐ楽屋に来て!!!』
「…っ、どういう事ですか。」
『今頼れるのは、ことりちゃんしかいないんだ。』
開演まで、残り15分。
ことりは戸惑った。
『…ことり。』
再び、声が楓に切り替わる。優しい声音を聞き、戸惑っていた彼女は落ち着いた。
『…俺達と、来て。』
「〜っ!」
「先輩!?」
もうすぐ開演だというのに、突然立ち上がったことりを驚いた表情で見ると
何時になく真剣な顔で、用事ができたと告げる。
「えっ?用事って?…ちょっと先輩!!」
走り出してしまうことりを止める事が出来ず、納得いかないまま席に座り直した。