男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
一度、リハーサルを見学しにきた為に楽屋の場所は何となくわかる。
立っている警備員に陽の妹だと言えば木村から連絡がいっていたらしくすんなり通してくれた。
急いで楽屋へと向かう。
「はあ、はぁ」
入る前に息を整えて、少しだけ震える手で扉をノックした。
刹那、勢いよく目の前の扉が開き思い切り腕を引かれる。
驚く暇もなく椅子の前に座らされ、メイクが始まった。
ぽかんとしていると既に準備をすませたメンバーが立っている。
鏡ごしに彼等を見ると、柚希が静かに口を開いた。
「また、頼んだ…陽」
ことりを見つめ、はっきりと自分を陽と呼んだ。
「本物の陽はスタッフが見つけてくれるみたいだし、それまで宜しくな!」
南も笑顔でことりを受け入れる。
「陽さんが会場に来たのを見たというスタッフが数人いるので、おそらく会場内の何処かにいるのでしょう。できるかぎり早く見つけだします。それまで、任せましたよ。」
木村は真剣な表情で告げた。
ファンを待たせるわけにはいかない。
陽はスカイの中心メンバーなのだ。
欠かせない存在である彼がいないとなると不信感を抱かせてしまう。
「…ことり、頑張ろうな。」
郁がぽん、とことりの肩に手をおいた。
刹那、泣きそうになる。
皆、自分を認めてくれている。
陽のふりをして、スカイとして活動していた自分を受け入れてくれた。
騙していたことには変わりないのに…
「ことりなら大丈夫だよ。この間まで、あれだけ練習してたでしょ。」
「…楓。」