男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-


「リハーサルまで10秒前~、9、8、7、」

言われた席に、ドキドキしながら座った。

目の前には大量の機材。

自分を映しているんだと考えると、自然と手が震えた。

(...陽、)

その震えに気づいていたのは、隣に座った郁だった。

今日の陽は可笑しい。

同じグループのメンバーとして、できるかぎりフォローしようと決める。


「3、2、1、スタート!」


「っ...。」

自然と顔が強張った。

自分は陽なんだ、大丈夫。と何度も言い聞かせるが、

震えは止まってくれない。

「今日のゲストは、今人気急上昇中のスカイです!」

司会者がそういうと、リハーサルから見ている観覧客がわー!と盛り上がる。

「今日、新曲のCDの発売日なんですよね?」

司会者は問いかける。

視線は陽に向いていた。

「っ、」

いきなり振られて驚いたのか、ことりはどうすることもできなかった。

すかさず郁がマイクを持ち、口を開く。

「そうなんです。スカイの二枚目のシングルCDなんですよ。」

陽の異常に気付いた司会者は、一瞬不思議そうな顔をしたものの、

そこには触れずに郁に視線を向けて質問を繰り出す。

「どういった曲になっているんですか?」

「アップテンポで、聞きやすくなってます。

曲も覚えやすいんで、よかったら買ってくださいね。」

郁はクールな表情を崩さず、綺麗に笑った。

すると観覧客から、 キャー! という歓声が上がる。

「では、その新曲を今日、テレビで初公開ということで

スカイのみなさんスタンバイお願いします!」

「はい。」

「よろしくお願いします。」

メンバーは立ち上がり、ステージへと移動する。

郁はことりの震えている手を掴み、立ち上がらせた。

「え!?郁君と陽君が手つないでるー!」

「キャアアー!可愛いー!」


「い、郁っ...。」

「しっかりしろ、陽。」

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