男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
*
「次の曲で最後って考えると寂しいです。」
陽の言葉にファン達からは 私も寂しい〜!陽いかないで〜っ! という声があがる。
それを聞いて、嬉しそうな表情を見せてからありがとうと言えば歓声が響いた。
「えー、俺は〜?」
南がすねたように言えばファンが 南くん可愛い〜! と叫ぶ。
満足げに笑えば、隣に立っていたことりが思わず吹き出した。
「なんで笑ってんだよ…」
「いや、なんかっ、面白くて…」
必死で声をださないように笑っている彼女が可愛く見えて、南は思わず頬を赤らめる。
それをみた楓が勢いよくことりの腕を引き、抱きしめた。
「僕のなんだから、惚れないでよね。」
ファンは演出だと思ったらしい。再び凄まじい歓声があがる。
「…とりあえず、最後の曲聞いてください。」
その言葉を合図に、会場内が薄暗くなりメンバーにライトがあてられる。
流れ出す音楽。
メンバー達は目で合図を送りあうと、完璧なダンスを披露した。
ちょうどその時、会場に戻ってきた彩乃はステージを見て目を見開く。
(嘘っ…ことり先輩!?)
ステージで踊っているのは、間違いなく先輩だ。
状況が把握しきれない。
呆然としていると、ポンと肩に手を置かれた。
振り向けば、木村の姿。
「一体、どういう事ですか…」
彼に説明を求めれば、嬉しそうな表情で 彼女は新メンバーだよ と告げる。
「…ことり、先輩が…」
驚いたものの、妙に納得してしまっている自分がいる。
ステージで踊ることりは輝いている。
彩乃は優しく微笑み、誰にも聞こえないくらいの声音で呟いた。
「…おめでとう、ことり先輩。」