男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
今日は土曜日ということもあり、人が多い。
「何処行く?」
「そんなに時間もないし、私は楓と居られれば何処でもいいよ。」
ことりの言葉が嬉しかったが表にはださず、そっかと返した。
「1時間前にはスタジオ入ってたほうがいいから…あと2時間しかないし、あそこは?」
ふと目についた人があまりいない公園を指させばことりは頷く。
特に何かするわけではなく、ベンチに座ると楓がことりの肩に頭をのせてきた。
「…私、楓が好きだよ。」
ぽつりと呟けば、楓が目を伏せた。
「急にどうしたの。」
「スカイがどんどん人気になってくから、不安なのかも…。近くにいるのに、遠くに行っちゃうような感じがして…」
「…ことりって馬鹿?」
楓はことりから離れると彼女の頬を掴み無理矢理自分のほうを向かせる。
その時、ことりが被っていた帽子が地面に落ちた。
「ことりもスカイで、仲間じゃん。それに、僕の彼女なんだし。遠くに行くわけないだろ。」
「…楓、」
帽子が落ちたせいで、スカイのことりだとまわりにいた数人にバレてしまっていた。
そのことに気づかないまま、楓は彼女を引き寄せる。
「か、楓っ!」
「ことり、愛してる。」
かああ、と顔が真っ赤に染まる。
ことりは自分達に向けられている視線に気づいているために慌てて楓を引き離そうとするが、
予想以上に力が強かった為に不可能だった。
「楓、皆見てるよ!」
ことりの言葉を無視して楓は帽子と眼鏡を取り、変装を解いた。
そして、そのままことりの唇を奪う。
驚いて目を見開けば、楓は笑った。
「だから言ったじゃん。
僕はバレてもいいって。」
(ああ、もう)
ことりの心拍数があがっていく。
自分達を目撃した人々がキャー!と叫ぶ。
「ちょっと早いけど、スタジオ行こっか。」
楓は何時もの調子で彼女に告げると、手をとって走りだした。