男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「う、うん...。」
トークは郁のフォローでどうにかなったものの、
歌とダンスはどうしようもない。
隅で自分達を見ている木村に視線を向ければ、他人事のように手を振られた。
初めの立ち位置はどこなのか、
どういった曲なのか、
どういうダンスを踊るのか。
全くわからないまま、ことりはステージに立つ。
「陽はここだろ。」
初めはメンバー全員が、横一列に並んだ。
スポットライトが当たる。
柚希、楓、陽、郁、南という順だった。
(...お兄ちゃんは、いつもこんな緊張する中で頑張ってたんだ...。)
陽は、真ん中で一番目立つ位置にいるのに
いつも自信満々に踊っていた。輝いていた。
(私は...。)
やっぱり、兄の代わりにはなれない。
「陽。」
「...?」
今まで一言も話さなかった柚希が、口を開く。
「いい加減にしろ。」
ズキリ、
胸に、重い言葉が突き刺さった。
どうして自分がこんな目に合わなければいけないんだろう。
無理やりステージに立たされて、何もわからないのは当たり前の事なのに。
緊張を忘れ、ことりの頭には血が上った。
もう、限界だ。
「いい加減にするのは、そっちでしょ!」
収録場に、ことりの声が響く。
刹那、シンと静まりかえった。
木村は焦ったように目を見開き、慌てて駆け寄る。
「よ、陽さん!ストップ!」
「元はと言えばアンタがっ...。」
キッ、とことりは木村に視線を向けた。
ことりがステージを降り、木村の前に向かおうとした時だった。
ぐい、
腕を引かれ、引き留められる。
「郁...。」
「っ、いい加減にするのはお前だ。」
パァン!
乾いた音が響き、頬に痛みが走った。