男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
番外編「風邪」
頭がくらくらする。
それに、体が熱い。最近、仕事続きで相当疲れがたまっていたことりはとうとう体調を崩し熱を出してしまった。
今日は、完全オフの日だったから良かった。しかし、明日は撮影がある。
(明日までに、治るといいけど)
内心そう思いながら、再び布団にもぐりこんだ時だった。
部屋のドアをノックする音が響き、返事をする前にがちゃりと開かれる。
入ってきたのはここには居るはずのない楓だった。驚いて目を見開けば、楓は慌てて駆け寄り額に触れてくる。
「熱い。」
「かえ、で。」
なんでここに?という視線を向ければそれを察したのか彼は簡単に説明した。
「陽に頼まれて企画書持ってきたんだけど。」
「そっかぁ」
「大丈夫?」
大丈夫と返事をしようとした時、頭痛がことりを襲った。思わず表情を歪めれば楓がため息をつく。
「今日は、僕が看病してあげる。」
どうせヒマだし、とつづけられた言葉にことりは何も返事ができなかった。
*
「口開けて。」
___どうして、こんな事になってしまったのだろう。
額にはられた冷却シートが意味をなさないくらい、熱とは違う意味で顔が熱くなるのがわかった。
目の前には少しだけ口元を緩めて笑う楓が、スプーンにゼリーをのせてこちらに差し出してくる。
さっき、何が食べたい?と聞かれ、ゼリーと言えば彼は買ってきてくれた。
そこまでは良いのだが、病人は大人しくしててと言われて、僕が食べさせてあげるとか訳の分からない事を言ってきた。
「は、はずかしい。」
「へえ?もっと恥ずかしい事してるのにね。」
そう言われ、ますます顔が真っ赤に染まる。