男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
どうして自分が叩かれたのかわからなかった。
「...。」
ぽかんとした表情で郁を見る。
郁は睨むような視線を向けると
自分の立ち位置についた。
「すいませんでした。」
そして頭を深く下げる。
観覧客も何が起こったのか理解できず、茫然としていた。
「あー、もう本番まであまり時間がない!
もういい!中止だ!」
監督に言われ、スカイのメンバー全員の表情が歪んだ。
「時間がおちてる。このまま本番に入るぞ!
全員位置について!!」
『はい。』
メンバー全員が先ほどトークをした位置へと戻っていく。
「こと...よ、陽さん!」
木村が叫ぶ。ことりは力なく振り向いた。
「すまない...。」
謝罪が、ずしりと心に伸し掛かる。
木村は、陽の双子の妹の自分に少なからず期待していたのだろう。
陽の妹だから、期待していた。
「っ...。」
瞳に涙が溜まる。
(私が皆に期待されないのは、お兄ちゃんのせいじゃない...
全部、私が悪かったんだ。)
自分から変わろうとせず、全部を周囲のせいにした。
兄の優しさを素直に受け入れず、傷つけていた。
「っ...。」
ことりは、ぐっと拳をつくった。
(...っ、やってやる。)
私は、何もできないわけじゃないってこと
証明させてやる。
私は、陽じゃない。森山ことりなんだ。
先ほどとは変わった、しっかりとした足取りで
自分の位置へと戻っていった。
そんな陽を郁はちらりと見て、ふ、と口元を緩めた。