男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
そして、本番が始まる。
何台ものカメラが自分の方に向く。
受け取ったマイクを強く握りしめた。
「今日のゲストは、スカイのみなさんでーす。」
「よろしくおねがいしまーす。」
「よろしくお願いします。」
ことりは作り笑いを張り付けて、挨拶をする。
「今日は、新曲のCDの発売日なんですよね?」
司会者は気を使い、郁へと視線を向けた。
郁はリハーサルの時と同じように答えようとマイクを口元に近づけた時だった。
「はい、そうなんです!」
しかし、答えたのは郁では無かった。
ことりは頬を少し赤く染めながら、元気よく答える。
「え、陽...?」
いつもの陽の雰囲気と違うと感じたメンバーは、ぎょっとして彼を見る。
「どういった曲になってるんですか?」
「俺、うまくは説明できないんですけど...聞いてみればわかると思います!
凄く良い曲になってるんで、みなさん、是非買ってください!」
曖昧すぎる返答に、司会者は思わず苦笑する。
しかし、いつもと違った陽が見れて興奮しているのか
観覧客は歓声をあげる。
「陽さん、いつもと違いますね。」
「少し緊張しちゃって...。」
あはは、とから笑いを見せるとさらに歓声が大きくなった。
「では、今日テレビ初披露ということで、
新曲を聞かせてもらいましょう!みなさん、宜しくお願いします。」
『お願いします。』
トークは何とか終わり、ステージに移動する。
全員が立ち位置についたとき、陽はごくりと喉をならした。
(大丈夫、いける。)
自分に言い聞かせ、深呼吸をすると真剣な表情へと変わった。
「....。」
楓はそんな彼を見て、小さく笑う。
しばらくして、曲の前奏が流れ始めた。
張りつめた空気の中、ことり以外のメンバー全員が完璧に踊りだした。