男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
ことりだけが動かず、マイクを握りしめ知らない曲を聞きながら
必死に口パクで歌う。
(っ、陽!?)
(アイツ何してんだよ!)
メンバーは驚きの視線を向けたが、今は本番の収録中。
怒鳴るわけにはいかない。
「か、監督、カットしましょう!」
陽の異変に気付いたスタッフが止めるように頼むが、
監督は口元をつりあげて笑った。
「いや、面白い。このまま続けよう。」
「ええっ!?」
ことりは笑顔を張り付けたまま、口を動かす。
冷や汗が頬を伝った。
木村はじっとことりを見ている。
ことりは、自分が間違っていると思わせないほど堂々としていた。
(陽の奴、ダンス忘れたのか!?)
郁はフォローにまわるべく、ダンスを自然にやめて歌いながら
陽の元へといき、背中合わせになる。
それを見たメンバーが二人にあわせるようにアドリブをしだした。
「・・・おお。」
監督は感激の声をあげる。
木村も目を見開いた。
ダンスは形になっていないが、メンバー全員がフォローしあい
中心にいる陽が良い意味で目立っていた。
「すごいじゃないか...スカイ...。」
「か、監督?」
様子が可笑しい監督にスタッフが声をかけるが
聞いていなかった。
「俺が求めていたのはこれだよ。
常識にとらわれないアイドルグループ。
こいつら...伸びるぞ。」
監督は確信したように言った。