男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「今日の陽は、可笑しい。」
「....。」
(だって、私はお兄ちゃんじゃないし。)
心の中でそう思ったがことりは口に出さずに、
郁を見上げる。
「あーもー!やってらんねーよ!」
南は大きなため息をついた。
「お前、最近一番人気があるからって調子に乗ってんだろ!?
だから今日だって、自分が一番目立つようにあんなアドリブまでしやがって!
仕事をなんだと思ってんだよ!?」
あわせてるこっちの身にもなれよ!と南は大声をあげた。
それに驚き、ことりは目を見開く。
「別に、そんなつもりじゃ...。」
「じゃあどういうつもりだよ!?
お前、この後も単独で雑誌の撮影あんだろ!?
...俺達の事見下してんのか?」
「み、見下してなんか...。」
助けを求めるように郁に視線を向ければ、
彼も怒っているらしく、ことりから視線を逸らす。
「・・・陽、今後もこのようなことがあるなら
スカイから抜けろ。」
柚希は低く、そう言った。
「っ....。」
険悪な雰囲気が漂う中、がちゃりと楽屋のドアが開いた。
「スカイのみなさん、お疲れ様です!いやあ、今日の収録は良かったですよー!
陽さんのおかげですね!」
「き、木村さん...。」
マネージャーの木村は、空気を読まずに笑顔で無神経なことを口にする。
「で、陽さんはこの後すぐに移動になりますけど
他のメンバーの方はこちらに目を通しておいてください。」
「なんですか、これ。」
木村はメンバーある書類を手渡した。
「来月のコンサートの詳細ですよ。
丁度収録が終わったあとに社長から連絡が来まして...
新曲を一曲、追加したいらしくて...。」
「...新曲?」
「ただでさえ忙しいのに、今からじゃ無理だろ!」
今でもスケジュールはいっぱいだった。
コンサートのダンス練習もあるのに、今から新曲を入れるとなると
歌詞や振付、立ち位置。すべてを覚えなければならない。
多忙のスカイにとって、不可能に近い。