男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
写真撮影
*
「....ハァ。」
場所は変わり、車の中。
ことりは大きなため息をついた。
「お疲れ様、ことりちゃん、思ってたよりどうにかなってよかったよー。」
運転席に座るのは、マネージャーの木村。
「どうにかなんて、なってないですよ。」
状況は凄まじく悪化しました、とことりは呟いた。
「...でも、大丈夫だって!」
「どこがですか!やっぱり私、お兄ちゃんの代わりに仕事するの
今日でやめます!こんなの、絶対無理です!メンバー同士もそんなに仲良くないし、
私、嫌われてるし...来月のコンサートなんて、聞いて、ないし...。」
だんだんと声が小さくなっていく。
そんな彼女を見て、木村は苦笑した。
「陽君も、初めは今のことりちゃんみたいだったなあ。」
「え?」
「何度も仕事で失敗して、移動中に泣きながら弱音を吐いて、
そのたびにもうこの仕事やめたいって言ってたよ。」
懐かしいなあ、と木村は言う。
予想外の言葉に、ことりは驚いた。
家では仕事をやめたいなんて一言も言っていなかった。
いつも、楽しい と言っていたのだ。
自分や母親を心配させない為に、ずっと弱音を吐くのを我慢していたのかもしれない。
ズキン、
ことりの胸が痛んだ。
「だから、大丈夫だって~。慣れないのは最初だけだしさ、
ことりちゃんならイケる。」
「どこからその自信がくるんですか。」
「まあまあ。...ことりちゃん、もう少し頑張ってくれないかな?」
「...え、」
「無理そうな仕事は、できるだけ断ってほかのメンバーにまわすし、
...お願い。」
鏡越しにうつった木村の顔は真剣だった。
「....。」
ことりは迷う。
このまま自分が陽の代わりを務めていても、きっと、いつか限界がくる。
しかし、今まで誰かに頼られたことがなかったことりは嫌だと思う反面
嬉しいと思う気持ちがあった。