男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「でも...。」
「こんな事を頼れるのは、ことりちゃんしかいないからさ。」
自分は頼られている。
(...どうしよう。)
ことりは悩んだ。
それを察した木村が、彼女を安心させるように笑った。
「大丈夫。本当に無理だと思ったら、また俺に言ってくれればいいから。」
「...ハイ。」
木村に良いように言いくるめられてしまった。
中途半端な自分に嫌気がさし、視線を窓の外へと向けた。
そしてふと脳裏に浮かんだのは自分と同じパートになったことが
気に食わなかったらしく、一人で先に帰ってしまった楓の事。
南や郁、柚希は今夜3人で練習するらしい。
「...木村さん、やっぱり私も楓くんと練習した方がいいですか?」
「え?新曲のダンスの事?」
「はい...えと、佐野君たちは練習するみたいだし...。」
「佐野君...ああ、郁さんの事か。
それはことりちゃんの判断に任せるよ。
あ、あとコレ。」
「?」
思い出したように木村は片手で鞄から携帯を取り出した。
「これ、陽さんの仕事用の携帯。
借りてきたから連絡を取るときはこれを使って。
あと、陽さんは他のメンバーの事を名前で呼び捨てにしてたから
ことりちゃんもそうしてね。」
「は、ハイ。」
少し戸惑いがちに携帯を受け取った。
「さあ、ついたよ。」
車が停止し、次の撮影場所についた。
ことりは息を飲む。
雑誌の撮影。うまくできるかどうかわからない。
緊張した面持ちで車を降りた。