男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
好きなように動いて、と言われてもどうすればいいのかわからない。
ことりはとりあえず、窓際の一番後ろに座った。
その場所は、ことりの席がある場所でもあった。
それを見て、黄色い歓声をあげていた女子生徒は黙り込む。
「...。」
頬杖をついて、窓の外を眺めた。
学校でいつも自分は一人だった。
誰もことり自身を見てはくれない。
色々な事を思いだし、急に切なくなった。
今思えば、ちゃんと自分を見ていてくれたのは陽だけだったのかもしれない。
(それなのに、私は...。)
窓から入る風がことりの髪を靡かせる。
差し込む太陽の光が、ことりを引き立たせる。
「っ、」
思わずその場にいた全員が息を飲んだ。
カメラマンでさえ、茫然とことりを見ている。
「ことりちゃん...。」
木村は、誰にも聞こえない声で呟いた。
今のことりは、陽ではない。
カシャ、
カシャ、
カメラマンはハッとして数回シャッターを押した。
「陽君、その場所に何か思い出があるのかい?」
カメラマンに問われ、ことりは顔をあげる。
「...いえ、特には。」
「独特の雰囲気がでてる、綺麗だ。
そのままこちらに歩いてきて、教室から出て。」
「はい。」
ゆっくりと立ち上がり、歩いていく。
自分に向けられる冷たい視線を思いだし、自然と手が震えた。
カシャ、
カシャ、
「いいねー、告白する前みたいな緊張感がある。」
「えっ///」
全くそんなつもりはなかった為に、ことりの頬は赤くなった。
カシャ、
「~っ///」
色々思いだし、感傷に浸っていたのが馬鹿みたいだ。
ことりはガラ、と扉を開けると教室を出た。