男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
ダンスレッスン
「お疲れ様です。」
控室で着替えて、ことりは帰る仕度をした。
この後はもう仕事がない。
「ことりちゃん、家まで送ってくよ?」
「この後予定あるんで、いいです!」
「そう?じゃあ、お疲れ~。明日の18時からのダンスレッスン忘れないでね。」
「わかりました。...あ、木村さん!」
「何?」
ことりはひとつ、気になったことがあった。
「学校って、どっちの学校に通えばいいんですか?」
「ことりちゃんは、ことりちゃんが通っている学校に通っていいよ。
陽さんが通う学校には長期休暇の届を出しておいたから。」
陽が通う学校は、芸能人が多く通う学校らしい。
郁、南、楓も陽と同じ学校に通っている。
「そうなんですか...じゃあ、もう行きます。お疲れ様でした。」
もう一度丁寧に挨拶をすると、木村は笑顔でことりに手を振った。
学校から、郁との待ち合わせ場所までは近い。
まだ結構時間はある。
なんとなく、兄の事が気になった為に
病院に向かうことにした。
*
病院に入り、まっすぐと陽の病室に向かう。
受付のナースが驚いたような表情で自分を見ていたことには気づかない。
ガラ、
病室には、母親はすでにいなかった。
きっと帰ったのだろう。
ベッドで気持ちよさそうに眠る陽を見て不思議な気持ちになる。
「お兄ちゃん...。」
何故か、兄の事を嫌いだとは思わなくなっていた。
今日、兄がしている仕事を身をもって体験したからだろうか。
知らないところで苦労しているんだと理解できた。
「私、今、お兄ちゃんの代わりに仕事してるんだよ...。」
聞こえているかわからないが、話しかける。
「いままで、ごめんね...。」
ぽたり、
ことりの瞳から、涙が落ちた。