男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「私、お兄ちゃんの事、何も知らなかった...。」
陽の手を握り、ことりは続ける。
「...でね、お兄ちゃんが戻って来やすいように
私、仕事も頑張るから...はやく、目を覚ましてね。」
反応がない陽を見て、ことりの表情はさらに歪む。
これ以上涙が零れないように、口をぎゅっと紡ぐ。
腕で涙をふいて、ことりは笑顔を見せた。
「お誕生日おめでとう、お兄ちゃん。」
*
「...。」
奥村楓は、自室のベッドで寝転んでいた。
(陽と同じパートなんて、嫌だ)
頭の中にあるのは、そのことばかり。
しかし、二人で練習しなければきっとダンスは成功しない。
「....明日、同じパートのメンバー変えてもらうように
頼もう。」
楓はそう呟き、瞳を綴じた。
*
もうすぐ待ち合わせの時間だ。
ことりは病院を出て、郁に言われた場所に向かう。
ここからすぐの場所の為に、5分でついた。
少し早くつきすぎてしまったらしい。
郁はまだいなかった。