男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-

『なんで?仕事?今日、わざわざ陽くんの教室行ったのに

居なかったから無駄足だったんだけど。』

刺々しい言い方にことりは思わず苦笑してしまった。

それに気づかれないように、 ゴメン と謝る。

『佐野も心配してた。』

郁の名前を出され、申し訳ない気持ちになったが仕方がない。

今、陽はいないのだ。

「...うん、仕事が忙しくて...で、何か用?」

『新曲の事なんだけど、僕、陽くんと同じパート嫌だから

今日変えてもらう予定。それだけ言っとこうと思って。』

はっきりと言われたことに、ことりは驚いた。

ズキン、と心が痛む。

真っ向から拒絶され、少なからず傷ついた。

「...なんで?」

『何度も言わせる気?僕、陽くん嫌いだから。』

「そ...っか。」

自分が嫌われてしまった理由は明白だった為に、何も言い返す事はできない。

陽がいない間に、だんだんと状況が悪化しているような気がした。

ことりは泣きたくなった。

『じゃ、そういうことだからよろしくね』

プツリと切られた携帯。

ことりはそれを見つめ、泣きそうになった。

(私...どうすればいいんだろう。)

とりあえず待っている彩乃の元に向かうと、

もういいの?と聞かれる。

頷けば、 だいじょうぶ? と顔を覗き込まれた。

「だ、大丈夫。」

「今の森山先輩、昨日のお兄ちゃんみたいな顔してる。」

「え?」

「相手に言いたいことあるなら、はっきり言えば?

ため込んでても疲れるだけだよ。」

「....そうだよね。」


刹那、予鈴が鳴った。

彩乃はその音を聞き、鞄を持って立ち上がる。

「あ、じゃあ私はもう行くね!

ねえ、森山先輩が良かったらこれからも一緒にご飯食べない?」

「うん。」

特に一緒に昼食をとる友達もいない為に頷けば、彩乃は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、また明日ね!」

手をひらひらと振られて、彼女は去っていく。

一人残されたことりは、弁当箱を片づけると自分も教室に戻っていった。

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