男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
ことりが学校を出ると、見覚えのある車が校舎前で止まっている。
「ことりちゃん!」
「あ...木村さん。」
マネージャーの木村が迎えに来てくれたのだ。
「斉藤、メイクを頼む。」
「ええ。」
ことりが後部座席に乗り込むと、隣に座っていた斉藤はメイクポーチを取り出し
ことりに化粧を施していく。
黙ってされるがままになっていると、木村は口を開いた。
「ことりちゃん、ダンスの事なんだけど...
一から覚えるのは大変なんだ。並大抵の努力じゃどうにもならない。」
「...。」
ことり自身、分かっているつもりだ。
こくん、と頷くと木村は真剣な表情で言った。
「頼むよ、森山 陽 。」
丁度メイクが仕上がる。
そして胸にサラシを巻きつけると、着替えにくいが車の中で着替え始めた。
暫く車で走り、ダンスレッスン場についた。
時間ギリギリだったらしく、ことりは少し慌てて会場に入る。
「ことりちゃん、頑張ってね!俺は仕事あるからもう行くけど
何かあったら連絡して!」
「はい!」
できるだけ大きな声で返事をすると、木村は笑顔を向けてから
車を走らせた。
キィ、
遠慮がちに押し扉を開けると、中には郁以外のメンバーがいる。
「こ、こんにちわ...。」
ことりが挨拶すれば、南、柚希、楓の視線がこちらに向いた。
「...来るのが遅い。」
柚希は静かにそう言った。
時計を見れば、まだ5分前だ。
どうして遅いと言われたのかわからないことりは首をかしげたが、
喧嘩にはなりたくないため、ゴメンと謝る。
「...郁は?」
「外せない用事があるから、遅れてくるらしいぜ。」
南の答えに、そうなんだ、と少し残念そうな表情を見せた。