男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「じゃあ、今から練習を始めるわよ~。」
パンパン、と手を二回たたいてからレッスン場に入ってきたのは
女性だった。
『宜しくお願いします。』
ことり以外の声が重なる。
女性は、ことりに視線を向けた。
それに気づき、慌てて頭を下げる。
「よろしくお願いします...。」
「じゃあ、最初はパートごとに分かれて練習しましょう。」
「すいません、そのことなんですけど。」
楓が一歩前に出て、発言した。
「何?奥村。」
「パート、変えてくれませんか。」
ズキン、
ことりの胸が痛んだ。
「駄目だ。」
しかし、それをキッパリと女性は断った。
「どうしてですか、七瀬さん。」
どうやら、ダンスを教えてくれる女性の名前は七瀬と言うらしい。
真剣な表情で七瀬を見る楓に、彼女は呆れたように言う。
「このパートは、奥村と森山にしかできないからよ。」
「...たしかに。俺たちがこのパートをやるとなると、身長的に無理だな~。」
南が書類を見ながら呟いた。
メンバーの中で身長が低めの陽と楓しかできないダンスだから、
二人を選んだと七瀬は言う。
「っ...分かりました。」
楓はあきらめたようにそういうと、嫌そうな顔でことりを見た。
「...この後、開いてる?」
「う、うん...。」
「僕の家で練習するよ。」
「わかった。」
「じゃあ、今から一度だけ通して踊るから
それを目で見て、しっかり覚えて。」
「!?」
ことりは目を見開いた。
あまりにアバウトな練習法に驚く。