男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「まだ佐野が来てないから、奥村と森山のパートからするわね。」
ちゃんと見ておきなさいよ、と七瀬は言う。
頷くのを確認すると、七瀬は踊りだした。
ことりは思わず息を飲んだ。
あまりの高度な、キレのあるダンスに目を奪われる。
(じ、自分にできるわけないよ...)
ダンスを初めてまだ1日しかしていない。
基本的な動きをやっと身につけたばかりのことりにとって、
難しすぎた。
「ここまでよ。」
「七瀬さん、ここのステップから次に動くときって
こうであってますか?」
「うん、そう。」
ことりは隣で、一度見ただけで大体踊れている楓を見て驚愕した。
「奥村、全然なってない。」
それなのに全然駄目だと言われている。
ことりは手足が震えた。
「次、森山。やってみなさい、アンタこういうダンス得意でしょ?」
勝手に得意にされても困る。
(ど、どうしよう...。)
出来ない。できるわけない。
この場から逃げ出したくなった。
「森山?」
七瀬は不思議そうな表情で自分を見る。
「っ、」
どうしよう、頭が真っ白だ。
今七瀬が踊っていたダンスを忘れてしまう。
ことりは、意を決して足を踏み出した。
昨日覚えたばかりのステップを刻む。
その光景に七瀬だけじゃなくほかのメンバーも目を見開いた。
「森山、何やってるの?」
「...スイマセン、おぼえられませんでした。」
素直にそう言って頭を下げれば、七瀬は更に驚いた。
いつもなら一度で大体を覚えてしまうのに、今日は違う。
「調子が悪いようね...もう一度書類に目を通して、
できるかぎりダンスを把握しなさい。」
「ハイ。」