男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-

そっけなく水の入ったコップと薬が差し出される。

ことりはそれを受け取り、飲み込んだ。

「家に連絡しておくから、番号教えてよ」

「うん...でも、今日お母さん夜勤だから帰ってこないんだ。」

「ほかに家族いないの?」

「...うん」

「そう」

未だに怠そうにしていることりを見ながら、楓はドクドクと鳴っている心臓を落ち着かせようとする。

「で、名前は?」

「...え?」

「アンタの名前」

「...森山、ことり。」

呟かれた名前は、聞いたことがあった。

依然陽が言っていた、双子の妹の名前だ。

仲はあまり良くないが、可愛い自慢の妹だと嬉しそうに話していたのを

思い出す。

まさか、双子の妹が陽に変装しているなんて思わなかった。

良く考えれば不自然な点はいくつかあったが、これは予想外だ。

「...変だと思ったんだよね、いつもの陽君じゃないし。

ダンスだって破滅的に下手になってたし。」

「...私、ダンスとか、したことないから」

「だろうね」

話しているうちに大分落ち着いてきた。

「で、なんで男装なんかしてたの?本物の陽君は?」

「...木村さんに頼まれたから、お兄ちゃんは事情があって

今は、活動できないの」

「マネージャーから頼まれたって...事情って、何?」

「...ごめん、言えない。」

< 59 / 213 >

この作品をシェア

pagetop