男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
そっけなく水の入ったコップと薬が差し出される。
ことりはそれを受け取り、飲み込んだ。
「家に連絡しておくから、番号教えてよ」
「うん...でも、今日お母さん夜勤だから帰ってこないんだ。」
「ほかに家族いないの?」
「...うん」
「そう」
未だに怠そうにしていることりを見ながら、楓はドクドクと鳴っている心臓を落ち着かせようとする。
「で、名前は?」
「...え?」
「アンタの名前」
「...森山、ことり。」
呟かれた名前は、聞いたことがあった。
依然陽が言っていた、双子の妹の名前だ。
仲はあまり良くないが、可愛い自慢の妹だと嬉しそうに話していたのを
思い出す。
まさか、双子の妹が陽に変装しているなんて思わなかった。
良く考えれば不自然な点はいくつかあったが、これは予想外だ。
「...変だと思ったんだよね、いつもの陽君じゃないし。
ダンスだって破滅的に下手になってたし。」
「...私、ダンスとか、したことないから」
「だろうね」
話しているうちに大分落ち着いてきた。
「で、なんで男装なんかしてたの?本物の陽君は?」
「...木村さんに頼まれたから、お兄ちゃんは事情があって
今は、活動できないの」
「マネージャーから頼まれたって...事情って、何?」
「...ごめん、言えない。」