男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
余程の事情があるらしい。
楓は、無理に聞き出そうとはしなかった。
「陽君はいつ帰って来るの?」
「わからない...。」
今、彼はどこにいるのだろう。
何をしているのだろう、自分の双子の妹が男装してスカイにいるということを
知っているのだろうか。
マネージャーも、彼女の母親も、ことりが陽の代わりになることを許している。
それどころか、頼むなんてどういうことだ。
「意味わかんない...。」
「...また、話せる時がきたら、ちゃんと、言う...から」
うとうとしていることりを見て、少し無理をさせてしまったような気がして後悔した。
「そう...アンタが陽君の代わりにスカイにいるってバレたらマズいんでしょ?」
こくり、と彼女は頷いた。
楓は納得いかなかったが、ふう、と息を吐いてことりの頭を撫でた。
「秘密にしててあげるよ。」
「...え?」
「アンタの事完全に認めたわけじゃないけど...その、...努力してたのは
知ってるし...僕、何も知らないで強く当たってたし...ごめん。」
予想外の謝罪に、ことりは驚いた。
「...ありがと」
声はかすれていたが、楓にしっかり届いた。
楓は困ったような笑顔を見せてから何かを言っていたが
ことりの意識はすでに切れかけていた為に届かなかった。