男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-






「...ん、」

ことりは、目を覚ました。

まだ少し体はダルいが幾分マシになった。

だんだんと意識がはっきりしてくる。ここは、どこ?

知らない天井、部屋。あたりを見回した。

時計は午前1時を指している。真夜中だ。

「すぅー、すー、」

「?」

小さな寝息が聞こえて、自分の足元を見ればベッドにもたれかかるようにして眠っている楓の姿があった。

「!?」

あ、そうだ。自分はダンスの練習中に倒れたのだ。

そして、自分が陽の妹だと言うことがバレた。

「...。」

何はともあれ、楓には迷惑をかけてしまったなと思う。

額に張られている冷却シートと、近くに置かれている薬と水。

そして冷めてしまった卵粥に目が行く。


「...ありがとう、楓。」


小さく礼を言うと、楓がぴくりと動く。

そしてゆっくりと瞼をあげた。

「...あ、ごめんなさい...起こした?」

楓はことりの言うことを無視して、手を伸ばして彼女の額に触れる。

「熱、下がってよかった。」

「...///」

「寝てなよ。」

「で、でも、ここ楓のベッドで...。」

「ことりが使えばいいよ。」

ドクン、

ふいに名前を呼び捨てにされて心臓が高鳴った。

黙り込んでしまったことりを見て、楓は小さく笑う。


「昨日、寝ないでダンスの練習してたでしょ?」

「え?」

「さっき、鞄を運んでいるときにやけに重かったから、悪いとは思ったけど中を見たら大量にダンスの本があった。」

「...お兄ちゃんの立場を守りたかったし、早く皆に追いつかなきゃダメだって思ったから。いつまでも迷惑かけてるわけにはいかないし...。」

「僕も、最初はそうだったよ。」

「え?」




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