男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「僕、メンバーの中で一番ダンスが下手だったから。」
意外な楓の過去に、ことりは驚いた。
「気持ちはわかるけど、頑張りすぎ。体調管理も仕事のうちだよ。」
「...うん、気を付ける。」
「今はことりがスカイのメンバーなんだし、僕と同じパートなんだからしっかりしてよね。」
先ほどとは違う、優しい口調で楓は言った。
どうやら、認めてくれたらしい。
楓は、陽が自分達を馬鹿にしていると勘違いしていたのだ。
ことりは、少しだけ心が晴れたような気がした。
「...ありがとう。」
「本当は洗いざらい全部吐いてほしいんだけど。」
楓の言葉に、うっと言葉を詰まらせれば楓はため息をついた。
「まあ、いつか教えてよね。...このこと、僕以外のメンバーは知ってるの?」
「知らないよ。」
「そっか。」
彼が小さく口元を緩めたのを見て、ことりは不思議そうな表情を見せた。
「ことり、」
「何?」
「コンサートで踊る曲、今から死ぬ気で覚えなきゃほかのメンバーに追いつけないよ。」
「...わかってるよ。」
けど、実際一人ではどうにもならない。いくら努力をしても限度がある。
「これから、仕事が夜6時以降にない日は僕にメールして。」
「え?」
「教えてやるから。」
驚き、ことりは目を見開いた。まさか教えてくれるとは思っていなかった。しかも、仕事がない日は毎日。
「い、いいの?」
「うん。失敗するの嫌だからね。」
少しだけ楓の頬が赤かったのは、気のせいかもしれない。
再びうとうとし始めたことりを見て、楓は口を開いた。
「もう寝なよ。」
「...あ、りがとう」
礼を聞くと、彼は満足そうに笑った。