男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-


「僕、メンバーの中で一番ダンスが下手だったから。」

意外な楓の過去に、ことりは驚いた。

「気持ちはわかるけど、頑張りすぎ。体調管理も仕事のうちだよ。」

「...うん、気を付ける。」

「今はことりがスカイのメンバーなんだし、僕と同じパートなんだからしっかりしてよね。」

先ほどとは違う、優しい口調で楓は言った。

どうやら、認めてくれたらしい。

楓は、陽が自分達を馬鹿にしていると勘違いしていたのだ。

ことりは、少しだけ心が晴れたような気がした。

「...ありがとう。」

「本当は洗いざらい全部吐いてほしいんだけど。」

楓の言葉に、うっと言葉を詰まらせれば楓はため息をついた。

「まあ、いつか教えてよね。...このこと、僕以外のメンバーは知ってるの?」

「知らないよ。」

「そっか。」

彼が小さく口元を緩めたのを見て、ことりは不思議そうな表情を見せた。


「ことり、」

「何?」

「コンサートで踊る曲、今から死ぬ気で覚えなきゃほかのメンバーに追いつけないよ。」

「...わかってるよ。」

けど、実際一人ではどうにもならない。いくら努力をしても限度がある。


「これから、仕事が夜6時以降にない日は僕にメールして。」

「え?」

「教えてやるから。」


驚き、ことりは目を見開いた。まさか教えてくれるとは思っていなかった。しかも、仕事がない日は毎日。

「い、いいの?」

「うん。失敗するの嫌だからね。」

少しだけ楓の頬が赤かったのは、気のせいかもしれない。

再びうとうとし始めたことりを見て、楓は口を開いた。

「もう寝なよ。」

「...あ、りがとう」

礼を聞くと、彼は満足そうに笑った。
< 63 / 213 >

この作品をシェア

pagetop