男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
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翌日、昨日までの熱が嘘のように下がりことりの体調は完全に治っていた。
これもすべて、楓のおかげだ。
そういえば、楓は何処に行ったのだろうと部屋を見回すとソファーの上で横になり眠っている彼の姿を見つけた。
ベッドを使ってしまい少しだけ申し訳ない気持ちになった。
ことりはベッドから起き上がり、近くに置いてあったサラシを巻き直しウィッグを装着するとそっと部屋を出た。奇跡的にメイクは崩れていないが、早く落としたい。
時間は午前6時。学校までにまだ余裕がある。
「あ、陽…くん、おはよう!」
振り向けばパジャマ姿の彩乃が立っている。
ことりも笑顔で挨拶をした。
「おはよう、奥村さん。」
「彩乃でいいよ、お兄ちゃんと被るし。…もう大丈夫なの?」
「うん。色々ありがとう。ごめんね、迷惑かけて。」
「そんなことない!」
ビク。
思った以上に大きかった声に、ことりは目を見開く。
彩乃は恥ずかしそうに顔を赤らめると俯いて小さく謝った。
「…陽くんが、よかったら…また、泊まりに来てほしいな。」
「いいの?」
「もちろんっ」
「なら、また泊まりに来るね。」
そういえば、彩乃は嬉しそうな表情を見せた。
「…あの、」
「ん?」
「陽くんって、彼女…いる?」
「え?」
思わず聞き返してしまった。どうして急にこんな質問をしてくるんだろう。
「い、いないよ。」
「…そっか。いないんだ…」
ほっとしたような表情を見せる彼女。これって、もしかして…
ことりは鈍くはない為になんとなく分かってしまった。
自惚れではないが、彩乃は陽に惚れているのだろう。