男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-


「最近、スケジュール詰めすぎだよね。」

楓がことりにしか聞こえない声でつぶやいた。

ことりは頷く。

「陽さん!」

「っ!」

木村はことりの元まで行くと、彼の両手を握った。

突然の出来事に唖然とすれば木村はにっこりと笑う。

「陽さんは、出てくれますよね!?」

「え。」

「これもスカイのためなんですよ!」

「で、でも...。」

「ちょっとは考えさせてあげなよ。陽は忙しいんだから。」

楓は彼を庇うようにそういうと、木村は少し考えて引き下がった。

「...三日後には、返事下さいね。柚希さんにもそう伝えといてくれますか?」
「…はい。」

木村は言い終えると、続きの練習頑張って下さい。と言って出て行った。

残されたメンバーの間に険悪なムードが広がる。

「まーた、陽かよ。」

南の刺々しい物言いに、ことりは俯いた。

「…やめなよ。ひがんでる暇があるなら練習すれば?」

ことりの変わりに楓が言い返せば、彼は驚いたような表情を見せた。

「楓…、お前、最近変わったよな。陽と同じパートになってから変だぜ?」

「…関係ないでしょ。」

ふい、と顔を逸らす楓の頬は若干赤く染まっていた。







*

レッスンが終わった後、ことりは郁に呼ばれる。

「このあと時間あるか?」
「あー…、ちょっとなら。」

「何か食べに行かないか?」

郁の誘いに、ことりは嬉しくなった。丁度お腹がすいていたからだ。

「行きたい!」
「なら、行こう。」

「あ、楓もいい?」

実は、レッスンが終わった後、楓の家でダンスの練習をする予定だったのだ。

どうせなら楓も誘いたいと思ったことりは笑顔で郁に問い掛けた。

「…別に、いいけど。」

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