男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
*
そして森山家に、一本の電話がかかってくる。
丁度、ことりは風呂からあがり部屋に戻ろうとしていた時だった。
母親が電話に出たのだが、
明らかに様子が可笑しいことに気づく。
「・・・え?」
言葉に詰まっている母親を見て、
ことりは足を止めた。
「今すぐ向かいます。」
がしゃん!
母親は乱暴に受話器を置いて、車のキーを引っ掴み玄関へと向かう。
「ことりも来なさい!」
「う、うん。」
何か大変なことがあったのだと察したことりは
頷き母親についていった。
向かった場所は病院。
「お兄ちゃんに、何かあったの?」
状況はいまいちわかっていないことりは母親に聞くが、
返事をしてくれなかった。
どうやらただ事じゃなさそうだ。
ことりは静かに黙って、病院につくのを待った。
駐車場に車を止め、走る。
受付を通り、集中治療室前まで向かった。
ことりは大きく目を見開く。
治療室の中に、自分の兄がいる。
実感がないが、心臓が一度大きく唸った。
「うわあああっ、」
母親が泣き崩れる。
ことりはどうすることもできず、ただ、じっと母親を見ていた。