男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
少し、不服そうな表情を見せた郁には気づかず、ことりは楓を呼ぶ。
「楓!郁とご飯食べに行こ!」
「佐野と?」
「うん!」
目を輝かせていることりの申し出を断れるはずもなく、楓はうなづいた。
「でも、その後で練習するからね。陽のダンス、まだまだ下手だから。」
遠慮なくズバリと言い切る楓に、ことりは苦笑しながらうなづいた。
「…お前等、本当に最近仲いいよな。」
「…まあね。」
楓は否定せず、そう言うと郁の表情が曇る。
「郁?どうした?」
何も知らないことりは、顔色が変わった郁の顔を覗きこむ。
至近距離で見ることりの顔に、郁は心臓が高鳴るのを感じた。
(…なんだ、これ)
いままでの陽に抱いていた友情とは違う、不思議な感覚に戸惑う。
何故だかわからないが、陽が可愛く見えてしまうのだ。
(…俺、どうしたんだろう)
「なんでもない…行こう。」
一歩先を歩きはじめた郁をみて、ことりは首を傾げた。