男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
そこから、何故か郁から不機嫌なオーラが漂い始めた。
ことりはわけが分からず、気まずい雰囲気のためか口数が減る。
そんな空気を気にせず、楓は店員を呼び注文していた。
つられて、ことりと郁も注文する。
「陽、そういえばドラマの話...どうするんだ?」
「...俺、演技とかしたことないしなあ。」
「陽が弱気なんて、珍しいな。」
郁の言葉にドキリとした。
こういう場合、お兄ちゃんはなんていうんだろう。
「コンサートも近いんだし、出なくていいんじゃない?」
運ばれてきた料理を口に運びながら楓は言った。
あっさりした言葉に、郁は顔をしかめる。
「...まあ、最終的には陽が決めることだしな。」
「あー...うん。柚希と相談してみるよ。」
「そうか...」
本当はあまり出たくないが、兄だったらなんて答えるだろうと考えると簡単には断れ無かった。
自分がドラマにでれば、スカイの知名度もあがる。
メンバーの事や、兄の事を考えれば出るべきだろう。
けれど、もし柚希が出るのなら自分だけでないわけにはいかない。
一度話し合ってみようと思った。
「それと、...こないだから聞きたかったんだけど。」
突然の郁の言葉に、二人は顔をあげた。
「お前ら、何か隠してないか?」
「「え?」」
ドキリとした。
「何って、隠してるわけないだろ。」
ことりが愛想笑いを浮かべると、郁が少し悲しそうな表情を見せる。
「なら、いいよ。勘違いだった。ゴメン。」
郁は素直に謝罪し、料理に手をつけた。
「う、うん。」
戸惑いながら、ことりは返事をする。
それからファミレスを出て別れるまで、何故か郁と視線が合うことはなかった。
避けられているような気がして、ことりは胸がモヤモヤするのを感じた。