男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-

笑顔








その後、楓とのダンスレッスンを終えたことりは家に向かって歩いていた。

時間帯は遅い。

近道をしようと普段通らない道に差し掛かった時、近くの公園に誰かの影を見た。

「...柚希?」

どうしてこんな時間帯に公園にいるんだろう。

彼はベンチに座り、俯いている。

最初見間違いかと思ったが、本人のようだ。

このまま無視していくのも気が引けたことりは、そっと近づいた。


「...ゆ、柚希?」

「っ...!」

彼は驚いた様子でばっと振り向き、ことりの顔を見てハァと息を吐いた。

「...陽、か。どうしてこんな時間にいるんだ。」

「それはこっちのセリフだよ。家に帰らないの?」

「帰りたいが、帰れない。」

「え?」

どういう意味なのかわからず首をかしげれば、柚希は罰が悪そうな表情で口を開く。

「...家に帰れば、きっと木村にドラマにでろと言われる。」

「え?木村さんに?どういうこと?」


「俺は、木村と一緒に住んでるんだ。」


一瞬、意味が理解できずにぽかんとしたあとことりは驚いたように目を見開いて柚希を見た。

「ええええっ!?」

予想外の展開に、驚かずにはいられない。

(まさか、そんなっ、)

誰も柚希と木村が一緒に住んでるなんて教えてくれなかった。


「このことは誰も知らない。」

「そ、そうなんだ。」

落ち着きを取り戻したことりは、自分だけが知らなかったわけじゃないと聞き安心した。

「ねえ、このままここにいるの?」

「そのつもりだ。」

「でも、そろそろ帰ったほうがいいよ。こんなところで野宿なんて危ないし。」

どうにかして説得させようとするが、柚希は動こうとしない。

彼は自分がこうすると決めたら絶対に曲げないタイプだと理解した。
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